2026.08.19

残置物と明渡しの関係

先日、不動産オーナーである顧問先より、

「退去したテナントから鍵は返却されましたが、室内に什器や書類、在庫品などが残っています。明渡しは完了しているのでしょうか。」

    とのご相談を受けました。

    ■ 残置物がある場合、明渡しは完了したといえるか

    建物賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃貸人に対し、目的物件を明け渡す義務を負います。

    もっとも、「鍵が返還されている」という事情だけで、常に明渡しが完了したと評価できるわけではありません。

    ■ 占有が残っているかが重要
    明渡しとは、端的にいえば、賃借人が物件に対する占有を放棄し、賃貸人が自由に使用・収益できる状態に置くことです。

    そのため、室内にわずかな私物や不要品が残っている程度であれば、鍵の返還等から占有の移転が認められ、明渡し自体は完了していると評価される場合があります。

    しかし、次のような事情がある場合には注意が必要です。

    ・大量の什器、在庫、商品、書類等が残されている

    ・残置物のために次のテナントへの引渡しや内装工事ができない

    ・賃借人が残置物の処分や搬出のために出入りを継続している

    ・賃借人が室内を実質的に使用・管理し続けている

    ・鍵が返却されておらず、賃貸人が自由に立ち入れない

    このような場合、賃借人の占有がなお継続している、又は賃貸人による物件の使用収益が妨げられているとして、明渡し未了と判断される可能性があります。

    ■ 賃料相当損害金を請求できるか
    明渡しが未了であると評価される場合、契約終了後も物件を使用・占有していることになります。

    この場合、賃貸人は、契約終了後から実際の明渡しまでの期間について、賃料相当額の損害金又は不当利得返還を請求できる可能性があります。

    一方で、鍵が返還され、賃貸人が自由に物件を管理できる状態となっている場合には、残置物があることのみを理由に賃料相当損害金を請求することは容易ではありません。

    この場合は、残置物の搬出・保管・処分に要した費用や、次の賃貸借契約に支障が生じたことによる損害について、別途請求を検討することになります。

    ■ 契約書で定めておきたい事項
    残置物をめぐる紛争を避けるためには、賃貸借契約書において、少なくとも次の点を定めておくことが重要です。

    ・明渡し時までに賃借人がすべての動産を搬出すること

    ・明渡し後に残置された動産の所有権を放棄したものと扱うこと

    ・賃貸人が一定期間経過後に残置物を処分できること

    ・保管費用、搬出費用、処分費用を賃借人が負担すること

    ・残置物がある場合の賃料相当損害金又は違約金の取扱い

    ただし、残置物を当然に処分できるとする条項があっても、実際には所有権や処分の適法性が問題となることがあります。高額品や重要書類等が含まれる可能性がある場合には、安易な処分は避け、通知・保管・法的手続を含めた慎重な対応が必要です。

    以上の通りですが、少しでもご参考になりましたら幸いです。

    弁護士 鈴木 謙吾

    弁護士 鈴木 謙吾

    東京弁護士会

    この記事の執筆者:弁護士 鈴木 謙吾

    慶應義塾大学法学部卒。2005年に鈴木謙吾法律事務所を開設後、不動産関連の相談を多く受け持つ。 現在は50社以上の顧問先を抱え、慶應義塾大学法科大学院の非常勤教員を10年以上務めたほか、上場企業の社外取締役監査等委員としての業務も兼任している。